コロナ、もらわない、うつさない = 三密を避けよう
コロナ、接触減がとても大事 = 三密を避けよう

麻生氏の言う民度とは?

6月4日の参院財政金融委員会において、麻生副総理が
「(なぜ日本はコロナの死者が少ないのか?)日本だけ薬でも持っているのか?と問われたときに、お宅とは国民の民度のレベルが違うと答えると相手が絶句する」旨の発言
(→Youtube(https://www.youtube.com/watch?v=w-0eoemQINo))をし、マスコミ等で(一部ネガティブに)取りあげられています。

たしかに外国人から見ると、どこの国もおおむね似たようなコロナ対策を取っているのに(しかも日本はPCR検査数が少ないのに)なぜ日本の死者数が突出して少ないのか不思議に思えるでしょう。

この疑問は言葉を変えると、「感染対策を成功させるには何か別な要因があるのか?」という問いになろうかと思いますが、その答えを麻生氏は直観的に「民度」と表現したようです。

この答えを筆者的にもう少し丁寧に説明すると以下のようになります。

まずは、一人一人の感染収束に向けた「責任感」です。
次いで、背景因子として日本では
*国民が高度の衛生概念を持っている
*実際に国内では高度の衛生環境が整っている
*国民皆保険制度に基づく高水準の医療体制が整っている
の三要素があげられ、
さらに、ここにさまざまな生活習慣や行動様式などの因子も絡みます。
これらが麻生氏のいう「民度のレベル」の実態ではないかと筆者は考えます。

以上は麻生氏だけでなく、おおむね日本人の感覚としてコンセンサスに近いのではないでしょうか。

(詳しくは、当サイトの「コロナ、いったん収束―日本はなぜ封じ込めに成功したのか?」をご覧ください)

コロナ、いったん収束―日本はなぜ封じ込めに成功したのか?

はじめに


4月7日に発出された緊急事態宣言が、5月26日に全都道府県で解除されました。
現在、新型コロナウイルスの新規感染者は、一日あたり全国で50人内外に収まってきており、いったんは感染沈静化に至ったと考えて良いでしょう。

海外のメディア等では、日本がロックダウンなどの強硬措置を取らずになぜ感染沈静化を達成できたか、不思議がる向きもあるようです。本記事ではそのあたり、つまり日本において感染沈静化に成功した理由について、これまでの感染状況を踏まえながら検討したいと思います。

これまでの感染状況


まずは、緊急事態宣言発出前の国内の日ごと新規感染者数推移を示します。
(厚労省発表データより筆者作成。3月4日以降は、検疫で発見された帰国者の陽性例を含む)

感染の状況を見るには、一日の新規感染者数を追って行くこのグラフが最もシンプルで分かりやすいかと思います。
200406 感染
感染者は2月半ばあたりからぽつぽつ増え始め、一日20人前後で推移しましたが、3月に入ると各地でクラスターが発生し、全国では一日50人前後で推移しました。

ここまでは、欧米の状況と比較して、日本の封じ込めが上手く行っているように見えました。

ところが3月下旬になると、特に3月25日あたりから急激に感染者の増加が認められ、4月初頭には感染爆発の様相を呈し始めました。図からも一日あたりに発生する感染者が、100人、200人、300人超と、どんどん増えていく様相が見てとれます。

そしてその矢先に、7都府県を対象とする緊急事態宣言が4月7日に政府から発出されました。しかしながら、その後も感染者は増加を続け、日本もイタリアやアメリカのような惨状に陥るのかとの不安がよぎりました。

下図に、現在までの日ごと新規感染者数推移を示します(データ出所などは同じ)。
200531 感染1
増加を続けた感染者は、4月12日には743人を記録しました。

ところが、図からも分かるように、この日を最大として感染者数は明らかな減少傾向に転じ、その後も曜日によるうねりはあるものの順調に減少し、5月半ば以降は、ほぼ一日50人前後の状態が続き、現在に至っています。

厚労省発表によると、6月1日午前零時現在、累計感染者数は16884人、死者は892人となっています。

残念ながら感染者は1万人の大台に乗り、死者は892人の多きに及びましたが、いずれも欧米諸国に比べれば圧倒的に少なく、医療崩壊も一部でぎりぎりの状態になったようですが、全体としては回避できました。故に、日本の感染封じ込め対策はひとまず成功したと結論して良いでしょう。

その成功要因は何なのか? それを探るにあたり、まずは日本がどのような感染封じ込め対策をとってきたのか振り返ってみたいと思います。

そもそも日本はどんな感染封じ込め対策を取ったのか?


若干の変遷を経ていますが、基本は以下の柱によっています。

*水際対策
*有症状者の捕捉・隔離・治療、クラスター対策
*外出自粛、行動変容(特に密閉、密集、密接の三密を避けることを中心に)
 →それを確実にするための緊急事態宣言(接触八割減をめざす)

いろいろ取り沙汰されていますが、基本的にはこれが全てだと思います。
欧米その他におけるような、罰則などの強制力を伴うロックダウンは行われませんでした。

*水際対策


海外から感染者が入り続けていれば、国内でどのような感染封じ込めを行おうと、感染者は一向に減らないでしょう。当然ながら、水際対策は極めて重要です。これを中途半端に行ってもほとんど意味はありません。

1月~2月の水際対策は、入国者に対するサーモグラフィによる発熱のチェックや症状の自己申告程度で、言わばゆるゆるでしたが、3月から段階的に強化されて現在に至っています。

現在は、厚労省資料(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618399.pdf)に記載のように、感染症危険情報レベル2、3の国(大部分の国が該当→https://www.anzen.mofa.go.jp/)から来航する外国人は原則入国拒否、当該国から帰国する日本人はPCR検査を受け(レベル2はなし)、陽性者は入院等の措置を受け、陰性者は14日間の待機が要請されます。

ここまでやれば感染者流入阻止に有効に機能していると考えられます。一方で、これは経済活動を著しく阻害してしまうので、今後は国内外の感染状況を見ながら、段階的に規制を緩めていくことになるでしょう。

*有症状者の捕捉・隔離・治療、クラスター対策


当初は、37.5度以上の発熱4日以上(高齢者、ハイリスク者は2日以上)および呼吸器症状のある人で武漢・湖北省から入国・帰国した人、またはその濃厚接触者という条件を設定し、該当する人を保健所を介してPCR検査し、陽性の場合、さらにその濃厚接触者を検査して陽性者を追跡・捕捉するという流れで、有症状者の捕捉・隔離・治療と、それによるクラスターの捕捉・対処が実施されました。

その後、検査の条件から武漢・湖北省しばりが外され、症状に息切れ、だるさなどが追加されるなどの変更が加えられましたが、有症状者を検査して陽性者を捕捉・隔離・治療し、さらにはその濃厚接触者を検査して陽性者がいれば同様に対処する、という流れは現在も変わっていません。

つまり、日本は有症状者を起点とした感染者の捕捉・隔離という原則に基づく方法論を当初から現在まで継続し、症状などに関係なく広汎にPCR検査を行って網を掛けるというようなローラー方式は取りませんでした。

この間に、日本のやり方は、諸外国に比較してPCR検査件数が著しく少なく、感染の全体像を把握していないのではないか(だからダメなんだ)という議論がマスコミや各方面の人々の間で盛んに行われました。

2月頃に盛んに流布された「国は故意にPCRをやらせない」という陰謀論は論外としても、PCR件数が相対的に少なかったことは事実であり、感染の全体像が把握されていない可能性も否定できません。この点については厚労省も認識しているようで、現在抗体保有率の大規模調査が進行しているようです。この調査の結果から「感染の全体像」について、一定の回答が得られるものと考えます。

*外出自粛、行動変容


北海道では、札幌雪祭りを起点とするクラスターが発生するなど、比較的早期に急速な感染拡大が認められたことから、2月28日に道知事から「新型コロナウイルス緊急事態宣言」が発出され、外出の自粛などが要請されました。

また、文科省により、3月2日から小・中・高校の臨時休校が要請されました。

3月9日には、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による 「新型コロナウイルス感染症対策の見解」の中で、密閉・密集・密接のいわゆる三密を避けるように、提言が出されました。さらに、3月19日に同専門家会議から詳細な現状分析と対策が示され(→https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf)改めて、三密を避ける国民の行動変容が要請されました。

これを受けて、各都道府県知事からも同様の行動変容・自粛などに関する要請が次々と出されました(例:一都四県市共同メッセージ)。

ディズニーランド(2月29日から現在も休園)など、早期から臨時休業した施設もありますが、3月中に次第に休業する施設が増え、人出もある程度減っていったように記憶します。

緊急事態宣言


そはさりながら、前述のように3月下旬から急激に感染者の増加がみられ、4月の第一週にはそれが爆発と思えるようなペースに達しました。

都道府県知事からの要請は一層強まり、ようやくにして国が4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を発出し、4月16日にその対象を全国に拡大しました。

緊急事態宣言発出にあたって最も強調されたのは、外出自粛や休業などで三つの密を徹底的に避けることにより、具体的に「人との接触を8割減らす」ことでした。この8割減により、感染者を減少させるだけでなく、十分な減少に必要な時間を短縮できることが提示されました。このことは、4月22日の専門家会議提言に盛り込まれています。

宣言発出を受け、国内の対象地域では本格的な自粛や休業の態勢に入りましたが、報道などで示された大規模データ(例:6月2日・産経オンライン記事)を見る限り、「接触八割減」はほぼ達成されていたように思われます。

その後の感染状況は、上記のグラフを見れば分かるように見事に収束に向かい、現在に至っています。

では、なぜ感染者は4月12日をピークに減少したのか?


これが最大の謎でしょう。

もう一度、一日ごと感染者数のグラフを掲げます。
200531 感染1
新型コロナウイルス感染症は潜伏期間が平均5日、発症してからPCR陽性の確定診断が下るまで5日以上掛かるでしょうから、4月12日のピークは真の感染事象としてはその10~14日程度前にあったと考えられます。これは3月末ごろから4月初頭に該当するわけですが、この期間に何があったのかを考えてみます(ちなみに、東京オリンピックの延期が3月24日に決まりました)。

まず、感染者の方ですが、前述のようにこの時期に急激な増加を見せ始めました。3月28日に初めて新規発生が一日100人を超え、4月1日には早くも200人を超える事態になりました。このような状況を見て、このまま行くと大変なことになると思った人も多いのではないでしょうか。

しかし、この時期に何か大きな対策の追加や変更があったかといえば否です。

そこで思い出されるのは、3月25日からの小池都知事の連夜の記者会見で、強い危機感が表明されたことです。この25日には、上記の「三つの密」を避けることなど、強力な自粛要請が成されました。また3月30日には、都知事会見に同席した厚労省クラスター対策班の西浦教授から、「夜の街クラスター」とも呼べる事例や感染経路の追えない事例が、東京都で多発していることが報告されました。

同様の危機感は大阪府知事や首都圏の他の知事なども共有しており、複数の知事が異口同音に、国民による「自発性」以上の根拠を持つ自粛の必要性を訴えました(政府による緊急事態宣言発出の催促)。

#ちなみに政府は「ぎりぎり耐えている」などと言っていましたね・・・

また、4月1日に専門家会議の提言があり、基本的には3月19日の提言の延長線上でしたが、ここでも「夜の街クラスター」や、リンクの追えない感染者の増加に言及がありました。

一方、3月29日に志村けん氏が亡くなり、翌30日に大々的に報道されました。彼の訃報に接し、多くの国民、特に高齢者の方々は身近に死を感じたのではないでしょうか。筆者は高齢者ではないですが、やはり死というものを現実の問題として意識しました。

筆者は、以上のようなこの数日間のできごとが、国民に危機感を共有させ、本気で行動変容に向かわせたのではないかと考えており、これが、4月12日に感染者数をピークアウトさせた最大の要因だと考えております。

しかしながら、上記の水際対策やクラスター対策の他、国民の「本気の」行動変容だけで感染を収束に向かわせられたのかと言えば、それも否でしょう。

早い話が、こうすれば感染を避けられる」と言われたことを有効に実践するには、背景因子として、国民一人一人に高度な衛生概念が無ければ難しいのではないでしょうか。また、国内では大抵の場所が清潔になっているなど、社会全体に高度な公衆衛生環境が行き渡っていることも重要だと思います。無論、日本では国民皆保険をベースとする高水準の医療体制が整備されており、これが感染症対策の基礎になっていることは言うまでもありません。

その他、よく言われてきた種々の生活様式や文化的・習慣的要素が感染収束に有利に働いていたことも間違いないと思われます。

順不同で挙げるとするなら、例えば国民が清潔好き、マスクに忌避感を持たない、相手と接触しないであいさつする、大家族の家が少ない、靴を脱いで家に上がる、宗教行事で日常的に人が密集するようなケースが外国に比べて少ない、埋葬は火葬で行う、等々が思い浮かびます。

つまり、以上のような諸因子が直接・間接に作用し、国民の行動変容による感染収束を可能にしたのだと考えられます。

(その他、HLA型の比率など、日本人の医学的形質的要素が関与している可能性もありますが、現時点では証拠に乏しく、ひとまず措きたいと思います)

緊急事態宣言は本当に必要だったのか?


必要かどうかの前に、実際のタイミングはどうだったか考えてみたいと思います。

宣言は、まず7都府県を対象に出され、9日後に全国に拡大されました。

下図は、感染者(4月5日まで)が一都三県、大阪兵庫にどれだけの比率で存在したかを人口との比較で示したものです。
405大都市圏と人口
ここから、首都圏と大阪・兵庫では、人口比の約50%増しで感染者が発生していたことが分かります。
ちなみにこの図は、筆者が当時掲載した記事(その後削除)で首都圏、大阪圏を中心に緊急事態宣言を発出すべきと主張するために使ったものです。

上記の比率を考えれば、当初発出された宣言の範囲は妥当だったと思われます。

ただ、4月第二週には感染者は対数的な増加に入ったので、時期的にはもう少し早く発出した方が良かったと考えています。

ですが、いずれにせよ4月12日には感染者がピークアウトするので、手遅れになるということはなく、むしろ政治的には絶妙なタイミングだったかもしれません。

現実的な問題として、知事や国民の多くが早く宣言を出すべきと考えたところに出した結果となり、一週間早く出したよりも行動制限に対する不平・不満のたぐいは少なかったと思われます。また、もし数日でも遅れて出したなら、ほぼ同時に感染がピークアウトする結果となり、「感染者の増加と関係ない!宣言は不要だ!」との議論が巻き起こったのではないかと考えられます。

さて本題ですが、緊急事態宣言は必要だったのでしょうか?

上述のように感染者が4月12日にピークアウトしたことや、緊急事態宣言が感染者の減少を促進したようにも見えないことから、数字だけ見ると宣言は不要だったと考える人もいるようです。しかし、筆者はそのようには考えません。

政府から宣言が出されることによって、

まずは、給付金や休業補償などの経済対策その他、地方自治体が施策を行いやすくなります。そして施策が適切に実行されれば、国民の側の自粛・行動変容のモチベーションも上がり、八割接触減の達成も難易度が下がります。その結果、実際に感染封じ込めの効果も上がるでしょう。

ついで、言うまでもなく企業や事業主なども休業などの方向性を決めやすくなると思われます。ある意味、横並び効果とも言えますし、悪くいえば、企業や事業主の行動が半強制的に制限されたとも言えそうです。

また、心理的に人間とは弱い存在であり、「自発的」な自粛には限界があるでしょう。どうしても「自粛疲れ」は出てきます。そんなときに、宣言はある程度人々が自粛を継続するモチベーションにもなったでしょうし、ドロップアウトを防ぐ抑止力にもなったのではと思います。あるいは、言葉を換えるなら、国民に腹をくくらせ、例えば例年と同じようなゴールデンウイークの過ごし方を諦めさせるような効果があったのではと思います。

さらにはマスコミ等もこの宣言をおおっぴらには無視できなくなり、協力せざるを得なくなったように思います。どことは言いませんが、いつも政府のやり方に文句ばかりをつけていた報道機関も、期間中は心なしかかなり矛先が鈍っていたように思われます。これは結構大きな効果だったかもしれません。

などなど、緊急事態宣言は、それ自体では感染封じ込め効果を持たなかったかもしれませんが、それまでの感染封じ込め対策による効果、つまりいったん減少に向かった感染のモメンタムを維持する働きがあったのだと思われます。

従って、この宣言は必要であり、もしこれが無ければ、例えばゴールデンウイークの二週間後以降、つまり五月下旬あたりから感染者が再び増加に転じることもあったかもしれないと、個人的には考えています。

おわりに


前述のように、日本には国民皆保険をベースとする高水準の医療体制があり、また国民一般に高度な公衆衛生概念が行きわたり、公衆衛生環境も整っています。

今般のコロナ禍においては、抜本的水際対策、有症状者の確実な捕捉・隔離・治療、綿密なクラスター対策、人・人間接触の8割減に向けた専門家や為政者による提言や要請、数々の痛ましい事例の経験、国民の意識の変化と行動変容への取り組み、緊急事態宣言によるそれらの後押しと維持、背景因子としての日本人の生活様式や文化、習慣、宗教観など、すべての要素が作用して感染がいったんは収束したものと考えられます。

まだ完全な収束ではないので、いつ再燃してくるか分かりませんが、筆者もひとまずはほっとしたというのが偽らざる気持ちです。経済活動も徐々に再開されているようです。

第二波は今月中なのか、秋なのか、来年なのかは分かりませんが、いずれにせよ来たときは最小限の被害で抑えたいものです。まだまだ戦いは続きます。


PS:アメリカ(さらに大変な事態になっておりますが…)その他、まだ収束の見えない国々も、日本、台湾、ニュージーランドその他から、成功事例の中で取り入れられる部分は取り入れ、なんとか収束に向かってくれることを願うばかりです。

PS2:コロナ禍を戦争に例えるなら、今は「戦間期」に入ったとでも言えるかもしれません。この時期を利用した次への準備は欠かせません。マスク、消毒液、医療従事者用の防護装備その他の必要な物資の生産拡大と備蓄、検査体制の拡充と効率化、行政機関(保健所)と医療機関の連携の強化・オンライン化、医療体制の再点検などは最優先でしょう。

新型コロナ抗体検査キットの性能評価が出される

はじめに:ついに性能評価が公表される


昨日(5月15日)、厚労省のHP上でAMED(日本医療研究開発機構)研究班による新型コロナウイルス「抗体検査キットの性能評価」が公表されました。


以前の厚労相によるアナウンスでは5月1日ごろという話でしたが、少し待たされました。

検討結果は、表1ページという簡略なものですが、それ自体が重要なデータであるばかりでなく、抗体検査キットの特異度に関する信頼すべきデータを初めて示しており、重要な意義を持っていると言えます。

なお、抗体検査キットや抗体にまつわる話題は当サイトでもいくつか記事があるので参考にしてください。
(以下リンク)


AMED研究班が提示したデータ(抜粋)


この研究は、日本赤十字社の協力(→日赤関連リンク・「新型コロナウイルスの抗体検査キットの評価に関する研究」への参加協力のお願い)の元に行われ、2020年4月の献血検体(n=500×2)及び2019年1-3月の保存検体(n=500)が解析に用いられました

ちなみに、2019年1-3月の保存検体は新型コロナウイルス感染症の出現前であり、2020年4月の検体も、献血時に新型コロナウイルスを極力排除するような努力がなされています(→日赤関連リンク・新型コロナウイルス感染症に対する安全対策へのご協力のお願い)。

AMED研究班による元の表は少し煩雑なので、以下に数字のみ示します(%は一部筆者が計算しました)。

表:新型コロナウイルス抗体陽性率(AMED)

          2020年4月検体       2019年1-3月検体
            東京都内        東北6県          関東甲信越
キット
A社   2.2% (1/45)         0% (0/45)                      -
B社   2.2% (1/45)         0% (0/45)                      -
C社   0.4% (2/500)      0.2% (1/500)       0.2% (1/500)
D社    0% (0/45)         0% (0/45)                      -
E社   0.4% (2/500)      0.2% (1/500)       0.4% (2/500)

表の注釈によると、用いられている検体シリーズが異なる場合がありますが、ここでは省略しました。A、B、C、D社キットはイムノクロマトグラフィ法、E社キットはCLIA(化学発光免疫測定)法によります。

同じく、表の注釈には、「2019年当初には新型コロナウイルス感染症は存在しなかったことから、それら[0.2%, 0.4%の陽性データ]が偽陽性であるとともに、2020年の結果についても偽陽性が含まれる可能性が高い。(一般的には0.4%程度の非特異は許容)」と記述されています。

検出しているのがIgG抗体なのかIgM抗体なのかその両方なのかは記載がなく、分かりません。

データからの考察


周知のように、われわれが新型コロナウイルスに対する抗体を持っているかどうかは、今後のパンデミックの拡大やその封じ込め政策に影響してくる極めて重要な問題です。

そのため、世界各地や日本において、迅速検査キットを用いて「人口中にどれぐらい抗体保有者がいるか」の調査が行われ、おもに報道ベースで結果が公表されてきました。

しかしながら、筆者が見るところ、少なくとも一般に報道された「研究」のうち、抗体検査キットでは必ず出現するはずの、交差反応やその他の非特異反応に関する検討・検証、すなわち検査の特異度に関する検討・検証をきちんと提示した例は皆無でした。

(例えば、A社キットで2020年4月・東京都の検体を測ったデータのみから、都内に多数の潜在的感染者がいると言っていたようなものです)

つまり、別な言葉で言えば、今までは偽陽性が何パーセント出るかが分からないまま、陽性のデータのみが強調され、人口の何パーセントが抗体を保有している(すなわち市中で新型コロナウイルスがすでに蔓延していた)との推測が一人歩きしていたことになります。

今回公表された検討結果は、まずは話の前提をきちんと成り立たせましょうとの意味合いを持っており、いわば現在の「混乱状態」を整理するものでした。

まず、上表にAMED研究班がつけた注釈から示唆されるように、2019年1-3月の検体が、新型コロナウイルス感染症の発生前なので、ネガティブコントロールの意味を持ち、その結果が検査の特異度を表すことになります。

従って、表のデータの中で最も価値が高いのは、2019年1-3月の結果を含むC社とE社のデータです。注目すべきは、2019年1-3月のサンプルでも、C社、E社キットがそれぞれ0.2%と0.4%の陽性率を示していることです。これらは前述のように偽陽性と考えられ、つまり、C社、E社ともキットの特異度は100%でないことが示されたことになります。

ゆえに今、ある集団の抗体保有率について検討を行う場合は、極力特異度の高い検査キットを選び、確実なネガティブコントロール(少なくとも2019年夏以前)検体の結果と、最近の調査対象検体の結果を比較し、統計処理を行うことが求められるでしょう(もっとも、検査の特異度が99%を超えているので、ネガティブコントロール検体も100例程度では足りないのが難点です)。これは本来当然のことなのですが、残念ながらこれまでおろそかにされていました
(もしも抗体保有率が数十%とかに達しているならば、あまり問題にならなかったのかもしれませんが・・・)

一方、A社、B社、D社キットについては、45検体しか測定していないことと、2019年1-3月のデータすなわちネガティブコントロールがないことから、ほとんど評価できないと思われます。続報が待たれるところです。

さて、「なんだ偽陽性が0.4%も出るんじゃだめじゃん…」と思う方もいるかもしれませんが、筆者は、特異度が99.5%もあれば、相当優れた検査だと思います。抗原抗体反応といえども、その本態はタンパク質間相互作用であり、大なり小なり非特異反応は必ず出ます。この非特異反応を如何に抑えて高い特異度を出すのかが各メーカーの腕の見せ所だと思いますが、個人的に特異度99%以上ならまずまず成功、99.5%ならば、むしろもの凄い成功ではないかと思います。

今回の性能評価の結論は?


今回は、C社、E社キットの特異度が明らかになり、どちらも99%以上でした。また、統計処理はされていませんが、2020年4月の検体における陽性率は、東京都内、東北6県のどちらもネガティブコントロール検体と差がないと考えられます。

一方、A社、B社、D社キットの特異度については、現時点では評価できず、結果の意味付けもできません。

ちなみに、今回のA社~E社キットについて検査感度や検出感度のデータは提示されていませんが、後者については真陽性検体の希釈系列などを用いて比較的簡単に検討できるので、すでに分かっているのかもしれません。

* * *

報道によると、近々厚労省が1万人規模の抗体検査を実施するとのことなので、上記を踏まえた上でコロナ抗体保有の実態が明らかになることが期待されます。また、それを今年だけでなく来年も行えば、より重要なデータになるのではと考えます。


イムノクロマト検査にまつわる難しい問題:薄いラインはどう判定するのか?


さて、そこで話が終われば簡単なのですが、実はイムノクロマト法においては、特に今回のように非特異反応や交差反応などを問題にする場合に、難しい問題が発生することを、ここで提起しておきたいと思います。

それは「(すごく)薄いライン」をどう判定するかという問題です。

下図をご覧ください。 上段は、イムノクロマト法で陽性・陰性をどう判定するかの概念図です。まず、検査が上手く行っているかをコントロールラインが出るかで判断します。コントロールラインが出ない場合は、クロマトグラフィーが上手く行っていない(抗原抗体複合体が、溶液に乗ってちゃんと流れていない)と判断され、無効・再検査になります。

コントロールラインが出現したときに、判定(テスト)ラインが出現すれば陽性、しなければ陰性と判定します。
イムノクロマト問題
そこで問題になるのは、下段のように判定ラインが薄い場合です(左から薄さを変えて示します)。メーカー添付文書では、薄いラインも陽性と判定するよう記載されているものと、薄いラインに触れていないものがあります。いずれの場合も、判定は検査をする人に委ねられます。

では、「薄いライン」を陽性にする場合に、「すごく薄いライン」はどうするのでしょう? この図で言えば、3はともかく、4~6あたりです。
実は、どう判定したら真に正しいのかは誰にも分からないのです。これがこの検査の限界とも言えるでしょう。

そこで、実際に判定するとき、特に今回のような「性能評価」の場合、なんらかの基準を設けねばなりませんが、その基準が真に正しいかどうかも誰にも分かりません。「(すごく)薄いライン」は、本当に新型コロナ抗体が微量存在しているのかもしれないし、単なる非特異反応かもしれないのです。しかも、そのどちらであるかは、おそらく検体ごとに異なります。

ですが、実際問題、たとえば下段の3を陽性にするなら、4や5や6はどうなるの?その線引きはどこなの?と誰もが疑問に思うでしょう。恣意的判断を避けるために、微かでもラインが見えたら全て陽性などと決めれば問題を単純化できますが、偽陽性を出す可能性が非常に高くなります。このあたり、臨床現場では総合的に適切な判断が成されていると考えられますが、これまで発表された研究結果に関しては、判定基準が人によって違っていたのではないかと推測されます。

ちなみに測定を定量法にしても同じ問題が発生します。カットオフ値をどこに設定するのか、何らかの根拠で決めねばなりません。これも意外に難しいのです。